大統領と首相がいる政治体制

押しかけ評論 Vol.15 <大統領と首相がいる政治体制>

 11月初旬にスリランカで、和平推進派の首相が訪米中に慎重派の大統領が議会を停止し、非常事態宣言をするという事態がありました。
 スリランカではNHKスペシャル(9/13)で「テロを止めた対話」として取り上げられているように、ノルウェーが仲介工作をしてLTTEタミールイーラム解放のトラ)との和平対話が首相主導で行われていました。今回の大統領による「無血クーデター」騒ぎは大統領が主導権奪取を狙って起こしたもので、1ヶ月経った現在も完全収束はしておらず、綱引きが続いているものの、首相側が主導権は確保している模様です。

 大統領と首相がいる政治体制はなじみがなく違和感を覚えるので、ちょっとおさらいしてみました。

 一般に大統領は国を代表する「元首」。国王が統治する「君主制」から、国民が統治する人を選ぶ制度に移行した国では、国王に代わって大統領が元首になっているのが一般的です。フランス、ドイツ、イタリア、近いところでは韓国などがこれにあたります。欧州からの移民が作ったアメリカには元々国王がいないため、最初から大統領が国の元首です。
 カナダ、オーストラリア、ニュージーランドでは、元首である英国女王が「王権の代理人」として総督を任命していますが、同じ英連邦でもインド、スリランカシンガポール大統領制度をとっており、その中のインド、シンガポールの大統領には行政権限がありません。

 これに対し、国の行政の実務トップ(行政責任者)を首相と呼び、財務や外務などの大臣からなる「内閣」を率います(もちろん国によって選ばれ方や権限は違います)。日本やイギリス、ドイツ、イタリアでは議会の支持を受けて選ばれ、政治の実権を握りますが、フランスや韓国では大統領が議会の同意を得て任命しています。

 ところが、大統領が行政権限や政治の実権を握る国もあるのです。首相のいないアメリカの大統領は、元首も行政府も一手に握る最高権力者です。議会とは別に国民の選挙で選ばれ、議会の信任の有無に関係なく地位が保証されます。逆に議会解散権もなく、閣僚は議員を兼職できません。
 フランスの制度は、大統領と首相が共に政治の実権を握る点でユニークといえます。国民が選挙で選ぶ大統領は、首相任命権や議会下院の解散権など強い権限を持ちますが、下院選挙(総選挙)の後の首相選びでは、選挙結果に従って下院の多数党の指導者を任命するのが通例のようです。大統領選と総選挙の結果という、2つの国民の意思をそれぞれ反映させる仕組みですが、保守の大統領と左派の首相が共存したりする現象が生まれます。

 変り種(その1)はスイスで連邦大統領が元首として「扱われる」ものの、厳密には7名からなる連邦内閣が国家元首というものです。(その2)は中東のリビア、最近見かけなくなりましたが国家元首であるカダフィ"大佐"の下に行政責任者として首相が置かれています。

 日本に近いところに、国家元首である大統領が行政責任者を兼務している国があります。フィリピンとインドネシアですが、両国とも政治が安定する気配が全くありません。いっそ政治体制を見直してみてはどうかと思います。